この記事では「アドラー心理学入門」(岸見一郎著、KKベストセラーズ発行)についての感想・書評を書いていきます。

「嫌われる勇気」と「幸せになる勇気」の大ヒットによって一躍世間にその名が知られたアドラー心理学ですが、「嫌われる勇気」は90年代後半当時20代の青年だった「嫌われる勇気」の共著者の古賀さんがこの「アドラー心理学入門」に深く共感し、アドラー心理学についての本を書きたいと考えられていたことが発行のきっかけとなっています。

いわばこの「アドラー心理学入門」は現在「嫌われる勇気」で知られることとなったアドラー心理学像の原型なのです。

「嫌われる勇気」や「幸せになる勇気」よりももっとフラットに書かれています。アドラー心理学に興味を持たれた方には是非読んでほしい一冊です。

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「アドラー心理学入門」の醍醐味

「嫌われる勇気」と「幸せになる勇気」が青年と哲人の対話形式で書かれているのに対し、「アドラー心理学入門」はアドラー心理学の基礎理論を中心に書かれています。

理論と言っても一般の人にもわかりやすいよう簡単な言葉で書かれていますので、どんな方にもオススメです。

アドラーがどんな人生を過ごしてきたのか、アドラー心理学がどのような社会的状況の下に誕生したのかなどアドラー心理学を理解する上で重要な要素が書かれています。

また、アドラー心理学の実践の仕方について、著者の岸見氏が子育てをされる中でのエピソードなどを添えて、具体的に書かれています。

どんな人に読んでもらいたいか

「嫌われる勇気」と「幸せになる勇気」同様、全ての人に読んでもらいたいというのが私の意見です。

アドラー心理学は学ぶ人の立場や状況によって受け取られ方が異なってくるという特徴があると思います。しかしそれはアドラー心理学が対人関係や生き方、人間の幸福など人が根源的に抱える問題の本質に迫っているからだと思います。

特に今教育や子育てに携わっている方、部下の指導される立場の方、これからどのように生きたいか考えている学生や社会人の方、年齢に関わらず自分の人生の意味や価値について考えてみたい方におすすめです。

書籍各項目についての簡単な感想

アドラーはどんな人だったか
アドラーの育った環境や、どのようにして個人心理学(アドラー心理学)を唱えるに至ったのか、軍医としての第一次世界大戦での経験やアメリカへの移住、アドラーの死後どのようにしてアドラー心理学が広まったのかについて端的に書かれています。

フロイトの研究グループで対等の研究者として活動し、やがて袂を分かったことや軍医としての凄まじい経験をしやがて社会主義の政治改革ではなく教育により世界を救済したいと考えるようになったという点が特に印象に残りました。

アドラー心理学の育児と教育
ここからアドラー心理学を日常生活の中でどのように使うのかという実践についての議論に入っていきます。

アドラー心理学の核である「勇気づけ」とはどんなものなのか、どのように行っていけばいいのかが理論と具体的な例を用いて解説されています。

「褒めもせず、叱りもしない」という教育をどのように行っていけば良いかが具体的に話されています。

横の関係と健康なパーソナリティ
前章の「勇気づけ」からつながる発想ですが、アドラー心理学の中で重視される「横の関係」について説明されています。

アドラーが理想とするみんなが「上」を目指し競い合う社会ではなく、横の関係でつながり全体を前進させていくような関係が広がってくれば本当に住みやすい社会になると思います。

競争で勝者があればそれは必ず敗者があることを意味し、全体としてはプラスマイナス0である。また、競争に勝った人もその上での競争にさらに巻き込まれることになり心の休まる暇がない、というのは見事な指摘です。

自己受容と他者信頼についても重要な議論がなされています。

アドラー心理学の基礎理論
ここまでのところでもかなりアドラー心理学の真髄が語られていますが、ここではアドラー心理学をよりギリシア哲学と絡めて語られています。

ギリシア哲学における「善」(道徳的な意味で良いということではなく、「ためになる」という意味であること)、「悪」(その反対に「ためにならない」という意味)についての説明から始まり、人の行動は常に「原因」ではなく「目的」に沿って行なわれているというアドラー心理学の根幹bの一つである「目的論」についての説明があります。

「人は自分が意味付けした世界に生きている」という項目で、どんな言葉が勇気づけになるかは関係性によって変わってくる、という下りがあるのですが、大江健三郎さんの「恢復する家族」に出てくるエピソードで「元気を出して、しっかり死んでください!」という家族からの言葉が病気でいる間一番力づけになった言葉だったというエピソードが印象的でした。

もちろん、こんな言葉を誰に対しても使うことを推奨しているわけではありません。どんな言葉が「勇気づけ」になるかはその人との関係性によって変わることをわかりやすくするために、少し極端な例を使って説明されています。

「決定論に反対する」や「自分が決める」という項目があるのですが、「環境や教育、また素質ではなく自分が自分を決める」というアドラー心理学の大切な部分が論理的に説明されています。

人生の意味を求めて
「自立」や「責任」、「楽観主義と楽天主義」、「わからないと思って付き合う」「他の人は私の期待を満たすために生きているのではない」というアドラー心理学の大きな結論について論証されています。

「課題の分離」が決して自分と他人を分かつ個人主義的な考え方ではなく、他者と共存・共栄していくための入り口の考え方であることがわかります。

多くのユダヤ人を強制収容所への連行から救った一人のユダヤ人、シンドラーについての話があり、スティーブンスピルバーグ監督の「シンドラーのリスト」という映画についての話もあるのですが、その中で出てくる言葉としてい紹介されている「一人の生命を救う者が全世界を救う」という言葉にも重みがありました。

自分が何か良いと思ったことについて、最初はそれが誰かの賛同を得られなかったとしても、自分が始めていけばやがて世界が変わってくるということが説明されています。

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終わりに

この「アドラー心理学入門」は、岸見一郎先生が最初にアドラー心理学について1999年に書かれた本ですが、今読み返しても尚真新しい感じがあります。それどころか、今よりももっと先の時代に実現されるであろう社会について描かれているかのように感じます。

アドラーは第一次世界大戦などを経験し、世界がより良くなることを痛切に願って自らの思想を残したとされています。

大変な戦争下で生きた人々がどのような希望を後世に残したかを知るためにもこの「アドラー心理学入門」を一度読まれてみては如何でしょうか。

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