この記事では、
1.『嫌われる勇気』の衝撃、目的論
2.どんな人に読んでもらいたいか
3.書籍各項目についての簡単な感想
4.「課題の分離」だけでは勿体無い
5.人生の目標

について書いていきます。

アドラー心理学は「全ての悩みは対人関係の悩みである。しかし全ての喜びもまた対人関係からしか生まれない」という結論に立ち、自分自身や他の人との向き合い方を哲学をベースに考えていく心理学です。一般的な心理学よりも自己啓発に近いところがあります。

私自身、本の『嫌われる勇気』、『幸せになる勇気』、『アドラー心理学入門』を何回も読み返し、移動中にはオーディオブックで何回も聴き、アドラー心理学に強い影響を受けて生きてきました。

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嫌われる勇気の衝撃、目的論

2013年に発売され今や135万部を超える大ベストセラーとなり、発売から4年近くを経た今でも多くの人に読まれている『嫌われる勇気』ですが、これほどまでにヒットした一番の理由は多くの人が抱える悩みに対し、今までの常識とは全く異なる解決方法を提示し、しかもそれが実効性のあるものだったからに他なりません。

「哲学」というと難解な言葉に聞こえますが、本来難しいことを、対話形式という誰にでもわかりやすい形式で、しかも多くの人が共感する悩みについて真正面から論じられていることも人気を後押ししています。

中でも、「目的論」という哲学の思想をわかりやすく説明しています。目的論はもともと哲学者の間で語られてきたことではありますが、これをここまでわかりやすくして世間に伝えたのはこの本が最初ではないでしょうか。

目的論とは、全ての行動には「目的」があるとする考え方です。これの対極にあるのが「原因論」という考え方で、人の行動は「原因」に突き動かされている、と考えるものです。

どんな人に読んでもらいたいか

『嫌われる勇気』では対人関係をテーマとして話が進んでいきます。徹底的に人間関係が問われる内容となっています。劣等感と劣等性の違い、他者の課題と自分の課題を切り分ける「課題の分離」、人生のタスク、承認欲求の否定、叱りも褒めもしない教育、信用と信頼、仕事の本質など非常に幅広い事柄について話が展開されています。交友の関係や家族関係、仕事の課題などについても語られています。職場や教育の場などで誰かを指導する立場にある人、家族関係・友人関係について考えたい人、働き方などこれからの生き方を考えたい全ての人に読んでもらいたい本です。

3.書籍各項目についての簡単な感想

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知られざる「第3の巨頭」
アドラーについて、日本ではあまり知られていないが、欧米ではフロイト、ユングと並ぶ心理学の巨人の1人として認識されていることが紹介されています。

トラウマは存在しない
アドラー心理学の入り口の部分で、最も人を驚かせる、一般常識とは違った思想ではないでしょうか。人は過去の原因によって行動を決めているのではなく、現在の目的によって行動を決めているという議論が展開されます。引きこもりの人の例が挙げられています。

人は怒りを捏造する
ここも目的論で語られ、例えば誰かを怒鳴りつけた時、それは原因や感情に支配されて怒鳴りつけたのではなく、目の前の人を屈服させるために安易な怒りという感情を作り上げたのだと説明されています。確かに、腹が立った場合でも怒鳴らずとも冷静に話し合いで解決しようとすることはできるはずです。

あなたの不幸は、あなたが「選んだ」もの
ここはアドラー心理学の最も厳しい指摘ではないでしょうか。自分を不幸であると考えることで、例えば何か新しいことに踏み出さなかったり、責任を取ろうとしなかったり、不幸であるという感情さえも、目的のために選択しているということです。

すべての悩みは「対人関係の悩み」である
この主張がアドラー心理学を語る上で一貫しているメッセージです。内面の悩みというものは存在せず、どのようなことにも他者の存在が影響しているのである、と。孤独を感じるためにも他者の存在が必要と説明されています。

劣等感は主観的な思い込み
劣等感についての記述がかなり詳しくなされています。特に劣等性と劣等感の違いについての話には大きな学びをもらいました。人間は身長など本来人間の価値とは何の関係のないことも価値の問題に置き換えてしまっているのだと。

「課題の分離」とは何か
これもアドラー心理学の入り口として衝撃的な概念です。テレビなどでアドラー心理学を紹介する際にはまずこの課題の分離が紹介されることが多いですね。どこまでが相手の課題でどこまでが自分の課題かをはっきり見分けろという考え方なのですが、日本ではあまりない考え方なので、アドラー心理学の特徴を説明するにはここから入るのがやりやすいのかもしれません。最終的に責任を引き受けるのは誰かを考え、それは誰の課題なのかを見分けていくということが説明されています。

承認欲求を否定する
人には誰かに認めてほしいと思う「承認欲求」というものがあると言われます。しかし、アドラーはこれを否定しています。人の求めるように生きていくと結局のところ誰かの求める人間にならなければならない。自分自身の個性というものは誰かとの比較によって生まれる相対的なものではなく、絶対的なもので、その為、あなたの価値は誰かに承認してもらわなければならないものではないという考えが根底にあります。

仕事の本質は、他者への貢献
上記のところまではアドラー心理学の入り口で、人間関係の悩みを解きほぐしていくことに焦点が当てられていましたが、ここ以降がアドラー心理学の真髄です。テレビなどで紹介されるとき、ここ以降に踏み込んで紹介されないのがなかなか残念です。アドラーは幸福の本質は貢献感であると説いています。仕事や交友、恋愛、夫婦関係を通して「私は集団に貢献できている」という主観的な気持ちを持てる状態でいることが大切とアドラーは説いています。

普通であることの勇気
アドラーは誰も「特別なわたし」である必要はないと説いています。特別であろうとする人が常に全員から特別であると見なされるわけではありません。自分の努力や人間性にかかわらず、自分のことを批判してくる人や嫌ってくる人が一定数います。特別であることに価値を置くのではなく、自分が自分であることに価値を置くことが重要とアドラーは主張しています。

対人関係のゴールは「共同体感覚」
課題の分離などアドラーの唱える思想に触れると、他者と自分の課題を切り分ける、「あなたは他者の期待を満たすために生きているのではない」という言葉が見られ、少し冷たく感じる方もいるのではないでしょうか。しかし、アドラーはこれらは対人関係の入り口に過ぎないと言っています。自分と相手の責任を切り分けて、「わたし」と「あなた」が一体になるような感覚、すなわち「共同体感覚」を持つことが対人関係のゴールだと言っています。

「いま、ここ」に強烈なスポットライトを当てよ
世の中には将来計画を立てて行動することが大事という未来志向の人と、未来のことよりも「今この瞬間」を大事に生きる現在志向の人がいると思います。アドラーの思想は後者の現在志向です。わかりもしない未来のことなど考えず、今この瞬間に全神経を集中しなさいというメッセージです。ギリシャ哲学の用語でこのことを「エネルゲイア」と言います。現実的には将来の計画を立てるとしても、それは「今この瞬間」に集中するために計画を立てると解釈すればいいでしょう。

「課題の分離」だけでは勿体無い。自立、共同体感覚へ

アドラー心理学についてテレビなどのメディアで紹介される際、必ずと言っていいほどこの「課題の分離」が紹介されます。日本社会においては新鮮な概念で、アドラー心理学を紹介するのにはちょうどいいかもしれませんが、この部分にだけ注目されている傾向を少し残念に思っています。
続編の『幸せになる勇気』にもあるように、『嫌われる勇気』を読んで心が軽くなったと言っている人はアドラー心理学を誤解している可能性があります。アドラー心理学で提唱されている「人生の目標」は「自立していること」と「社会と調和して暮らせること」で決して自分の課題と他者の課題を切り分けるところで終わるものではないからです。

誰かを愛することによって、自己中心性から脱却し、身近な人を大切にすることから始め、やがてその範囲を少しずつ広げていけばいい。その過程であなたの歩み続ける勇気が試されるが、本当の幸せはその先にしかない、というのがアドラーの考えです。

5. テレビドラマの『嫌われる勇気』は間違っている

それを勘違いしたまま作って放送してしまったのが、テレビドラマの『嫌われる勇気』(フジテレビ)です。主人公の女性刑事が周囲への配慮を全くせずに傍若無人に振る舞いそれをアドラー心理学だと言い張るのですから。。。

私は第一話を見た後ツイッターへ以下のように書き込みました。


この感想は最終回まで見ても変わりませんでした。
以下のアドラー心理学会の抗議が非常に的を射ています。
http://adler.cside.ne.jp/common/pdf/fuji_tv.pdf

「嫌われる勇気」を少しだけ読んだ人がよくする誤解をテレビ局が地でやってしまったという感じです。

その時の私の評価を以下の記事に書いています。
嫌われる勇気 テレビドラマ第1話の感想 アドラー心理学を誤解したまま作られ放送されてしまった

アドラーの真髄は「愛」にあります。ここまで行かなければアドラー心理学を理解したことにはなりません。

『嫌われる勇気』を読んでアドラー心理学に興味を持たれた方は是非続編の『幸せになる勇気』も読んでみて下さい。
『幸せになる勇気』の感想も以下に書いています。
【書評】『幸せになる勇気』感想 アドラー心理学の決定版!

私もアドラーの言うように、「いまここ」に集中して、後悔のない人生を歩んでいきたいと思います。

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